2020年、春、コロナパンデミックで世界中が不安の渦に巻き込まれていた真最中に、ニュージーランドに移住し、ラグビー選手としての新しい人生をスタートさせた辰野新之介さん。
高校からラグビーを始め、社会人ラグビーでも活躍していたがプロへのコミットはしていなかったよう。
でもあることをきっかけに20代半ばという選手としては遅いスタートでプロを目指し、ラグビー選手の憧れの地、ニュージーランドでその道にチャレンジされている。
どんなスポーツでも、プロ選手になる道は狭き門、また体力的なことからそのキャリアも短い、それでも、リスクを超えてチャレンジする、そこまで人を駆り立てるラグビーの魅力は何か?プロを目指すし続けるモチベーションは何なのか?
夢を追いかけて「自分の限界」に真正面からタックルし続けるラガーマン辰野さんにインタビューしてみました。
キャリアー社会人ラグビー選手、退職後、プロを目指してNZでチームに所属し活動中
お名前:辰野新之介さん
多くの有望選手が人生の岐路でラグビーを諦める厳しい現実
ー辰野さん、今日は時差のある中、インタビューをありがとうございます。
他のスポーツと比べて、ラグビーは実力があってもラグビー選手の道を進まれない方が多いとも聞きます。辰野さんのラガーマンとしてのキャリアは、大学を卒業後、大手企業の社会人ラグビー部員としてラグビー選手を続ける道を選ばれています。その当時のキャリアはどのような選択だったのでしょうか?
はい、よろしくお願いします。
そうですね、当時はラグビーは好きで続けたいけど、プロになりたいとは思っていませんでした。正直、2015年ワールドカップで好成績を残してからラグビーは日本国内で知られるようになっていますが、それまでは他のスポーツに比べプロになっても将来性がない職業だったんです。
日本は企業と契約したプロ選手になるか、社会人ラグビー部に入り社員としてラグビーを継続するかの選択になる、でも選手の寿命は30歳くらいまでなので、引退後の人生の方が長い。
だから実力があっても、プロ契約のオファーを断る人もいますし、実際に僕もプロ契約のオファーもありましたが、それを断り、社会人として就職しラグビー部員としてラグビー選手ができるという将来の安定を考えた道を選択しました。
ーなるほど、ラグビーの歴史を見るとアマチュア精神が強くプロスポーツの確立は世界に大きく後れをとっているとうのは素人の私でも聞いたことがあります。そんな中、辰野さんは20代半ばでプロを目指して今はニュージーランドのチームに所属してプレイされていますね。一体何があったのでしょうか?
そうですね、やっぱりあのワールドカップで日本チームが世界で活躍しているのを見て、僕もワールドカップを目指したい、プロ選手になりたいと、思ったんですよね。
ーなるほど、あのワールドカップでの華々しい躍進劇は、それまでずっと活動してこられた多くのラグビー選手に本当に希望を与えてくれるものだったんですね!
20代後半でプロ選手を目指し、自ら行動しチャンスをつくってニュージーランドへ。
ー社会人ラグビー部員としての活動から、新たな目標を目指し本気になった辰野さん、その後、ニュージーランドへ移住されます、それはどんな経緯だったのですか?
プロを目指すと決めて、会社員はそのまま継続しながらですが、所属していたチームを辞めました。とにかく、いろんな人に声をかけてたり、他チームの情報取集をしました。
でも、興味は持ってもらえても自分のポジションが空いてないとか、タイミングの悪い状態がしばらく続いていました。
でも諦めてないでいたら、ある時、コツコツ声掛けをしたいた一人から、「ニュージーランドでプレイしないか?」と、突然、連絡があって、それが1月の半ばだったんですけど、二つ返事で決めて、その年の春にニュージーランドに飛びました。(笑)
ーすごいですね!でもニュージーランドへの移住となると、さすがに会社を退職する大きな決断です。
そしてちょうど、2020年の春というとコロナパンデミックで各国がロックダウンを決断していた時ですが、迷いはなかったんですか?
迷いはなかったです。そして本当にニュージーランドに到着した次の日にロックダウンが始まり、多くの人が外国人が次々に自国に帰っている最中でしたが、僕はそのまま残りました。正直、会社も辞めたし、日本に帰ってもやることもなかったですから。(笑)
ー本当に退路を断って前進された、という言葉がぴったりですね。でも、あの頃の世界情勢は委縮モードでだったのに、その逆をやってのけたところから、コミットメントの強さを感じます。
※左側が辰野新之助さん
ラグビーを通して自分が成長できる!これが真のラグビーの魅力
ーその後のコロナ禍をニュージーランドで過ごし、一度、帰国されたのち、またチャンスを掴んで、今、まさしくニュージーランドにおられるわけですが、選手生命の短いラグビーに情熱を注ぎ続けられる、そのラグビーの魅力を教えてください。
そうですね、自分にとっての一番の魅力はラグビーをやっているとき、自分を表現できる、自分そのものを爆発させられるっていう感じがしています。
ーなるほど。確かに、全身全霊で相手にタックルしてぶつかっていくわけですからね、完全な無防備な状態、ありのままの存在でぶつかり合っていますね。人ってまわりからどう思われるとか、自分のままを表現したりすることを大人になればなるほど躊躇しがちですが、ラグビーをしていると「そのままの自分でいられる」「そのままの自分を表現できる」という感じなのですね。それはとっても魅力的ですね。
ありがとうございます。
他にももちろんラグビーの好きなところがあって、「一人はみんなのために、みんなは一人のために」っていう言葉があると思うんですけど、ラグビーは人のためにするプレイの連続でできているスポーツなんです。
だから仲間との一体感が大事だし、その一体感がないと勝てない。
それをみんなでつくって、試合で感じて、試合後にロッカールームでビールを飲む、その瞬間が最高なんですよね。
ーお話を聞いていると、ラグビーで経験できるその状態を私も感じてみたくなりました。だからといってあの痛そうなタックルをやってみたいってわけじゃないですけど(笑)
あと、今の自分のモチベーションがキープできているのは、これまで関わってくれた人への恩返しの気持ちが強いですね。僕が日本代表になったら、みんなが喜んでくれる、そうやって感謝の気持ちを返したいって思ってます。
今の目標は世界的に有名なオールブラックスのメンバーを多数輩出しているチーム「クールセーダーズ」でプレイすることです。
世界のトッププレイヤーでテクニックやメンタル面でも人としてすごく尊敬できるんですよ。
普段すごく穏やかで温かくて、でも試合になると揺るがない、全くぶれない強い軸があって、本当にかっこいいなと思います。
そして、そんな選手って会うだけで元気がもらえるんです。僕もこんな人になりたいって思います。
ー辰野さんにとってラグビーはスポーツや職業という範囲を超えて、自分を成長させてくれるものなんですね。だから、ラグビーに魅せられる、もっとラグビーをやりたいっていうモチベーションが保たれ続けられている、そんな感じがします。
確かに、そうかもしれませんね。
そして、今、自分が持っている目標って、僕自身だけのためだけじゃなくて、誰かのためにもなったらいいなって思っています。
僕は人より10年くらい遅いタイミングでプロにコミットしたので、この年齢でプロを目指していることもそうだし、そして日本人が達成したことのない世界でも憧れのチームでプレイできたら、きっとたくさんの人を勇気づけられるって思うんです。
ー素敵ですね。私も辰野さんのラグビー人生を通して、ラグビーの魅力を教わりましたし、自分の成長が誰かの成長に繋がっているという視点で目標を決めていきたいなと思いました。ありがとうございました。
辰野さんのラガーマンとしてのキャリアストーリーには多くの魅力的な人影を感じる、それはきっと、多くの人によって助けによって開かれたキャリアだと感じておられるからに違いない。
人生の目標やキャリアのゴールを考える時、何を達成したいか?という問いがよく使われる。
でも、もしかしたら、挫折や困難を乗り越えさせてくれる動機は、「それを通してどんな人になりたいのか?」「どんな自分に成長したいのか?」という内的要因の方かもしれない。
心から尊敬する憧れの人、その人のようになりたい、という動機や、限界を超えてチャレンジする自分が誰かの希望になる、という目標は、仕事を通して人を幸せにするに違いない、と感じさせてくれたインタビューでした。
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「あなたの働くを考える」インタビューコラムでは、様々な職種、雇用形態、働き方の方にインタビューし、
その方のキャリア形成のプロセスに着目しながら、どんな動機やきっかけが人のキャリアを形作っていったのか?
そしてそれが人生にもたらしている影響はどんなものなのか?を伝えていきます。
そうすることで、読者の「働くこと」を考えるひとつのきっかけや刺激になることを目的としています。
あなたは、今なぜ、その仕事をしていますか?
今の仕事、働き方に満足していますか?
あなたがチャレンジしてみたいことはどんなことですか?
これからの「あなたの働く」をこの記事とともに一緒に描いてみましょう。