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進路の迷いと悩み、最高のタイミングでチャンスの扉が開かれる、人生の不思議。

2024年3月26日

コミュニケーションのイラスト

富山県立山町生まれの大平渓子さん、小学生の頃からほぼ毎日雄大な立山連邦を眺めながら犬と散歩するのが日課だったという。そんな大平さんは、美しいだけでなく心までも癒してくれる自然の秘密を解き明かすために研究者を目指し京都大学大学院まで進学。

探究心と情熱のままに進んだ先は、決して順風満帆ではなく、途中で目標を見失い人生の迷路に迷い込む。その後、大学院を退学し、今は、造園業の会社で自分が自然の一部として関わる本当にやりたかった仕事をされている。

未来を見通せず葛藤に苦しんだ大平さんがどのようにして自分らしく心が喜ぶ仕事を見つけることができたのか?人生ストーリーを垣間見てみましょう。

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お名前:大平渓子さん
キャリア:大学院中退→アルバイト→造園業修行(個人事業主)

 

「自然が好き、だから研究者!」ストレートな熱い想いで一浪し京都大学へ

 

ー大平さん、今日はよろしくお願いします。大平さんは高校生で研究者を目指し、京都大学農学部、その後、大学院へと進学されたと伺いました。研究者になろうと思われた動機や想いを詳しく教えてください。


今日はよろしくお願いします。研究者を目指した動機は実はとても単純で「自然が大好きでもっと知りたい、だから研究者になってみよう」というものでした(笑)

私は富山県の立山町というとても自然豊かなところに生まれました。小学1年生くらいから毎日犬の散歩をしていて、長い時は3時間の時もありました。

一面に広がる田んぼ道を歩き、遠くに立山連邦の山の稜線を眺め、春夏秋冬(はるなつあきふゆ)それぞれの季節の移ろいを楽しみ、夜には眩い夜空の星たちに包まれてきました。

「どうしてこんなに綺麗なんだろう、どうしてこんなに気持ちいいのかな、そして、どうして自然はこんなにも安らぎを与えてくれんだろう」と思っていたんです。

その理由を知りたくて、それを解明するには研究者だ!て思ったんです。

 

ー長い時は3時間のお散歩とは、本当に飽きることなく自然に魅せられていたのですね。ところで研究者を目指されたのはいつ頃からでしょうか?

 

たしか高校2年の時だったと思います。研究者といえば京都大学というイメージがあり、農学部森林科学科を目指し始めました。
でも、最初の受験では数学が200点満点中3点という成績で(笑)全く届かなかったんですが、1年浪人して2年目で合格しました。

 

ーなるほど、自然の美しさに魅せられて、その秘密を解明したくなったという発想そのものが研究者にむいていると思いますが、すごい集中力で合格を手にされ夢を掴まれたわけですね!

 

 

 

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やりたいことを見失い、進路に迷う日々、忘れない恩師の言葉

 

 

ーさて努力の末、無事合格された第一志望の京都大学、大学ではどんなことを研究されていたんですか?

 

学部では熱帯林の研究室に出入りして、実際にマレーシアのボルネオ島へ行き、熱帯雨林でキャンプをしながら採取した葉っぱの成分を分析して土と木の関係などを研究していました。

 

ーその後、大学院へ進学されましたが、迷われて休学されたようですね。どんな迷いがあったのでしょうか?

 

最初は研究にとってもワクワクしてたんです。でも重ねるうちに、自分の内側の感覚とちょっと違うな、そんな違和感を感じるようになったんです。

でも、研究者になることも大学院にいくことも決めたことだし、とそのまま進学を選択しました。 

 

進学して大きく違ったのは、学部の時は先輩や先生が研究をサポートしてくれたのですが、大学院となると自分でやらなきゃいけなくなる、自分の明確な自主性と意思が必要です。そうなった時に、自分を突き動かすようなモチベーションが生まれず、進学早々に出席できなくなってしまったんです。

今振り返れば、鬱っぽくなる程、悩んでいたんだと思います。

 

ついに夏休み前にすごくお世話になってた教授に「大学院をやめようと思います」と伝えにいったんです。

 

すると、その教授が思いもよらない海外留学を勧めてくれたんです。「せっかく大学院に入ったんだし、もっと広い世界を見てきたら」って言ってくださったんです。

 

ー大学院に進学直後に留学という急な進路変更の決断ですよね、留学を決意された決め手は何だったんでしょうか?

 

そうですよね、当時、答えが出せない鬱々とした状態の私にその教授がこう言ってくださったんです。

 

「人生とは不思議なもので、目の前にある扉を一つ開けたら、思いがけない次の扉が回ってるもので、そうやって進んでいくんですよ」と。

 

この言葉に安心して、まず目の前にきた扉をひとつ開けてみようと留学を決めました。

教授には奨学金を取るための書類や手続きなども手伝っていただき、1年間の留学へ飛び立ちました。

 

 

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目の前に開いた扉、常夏のフロリダ大学へ

 

ー進む道に迷い、視野を広げるためにフロリダ大学への留学、その体験はどんなものでしたか?

 

実は、留学初日に驚かされました。私は当然、研究者としてここに来ていると思っているので研究計画まで書いて現地の先生に見せたんです。

そうしたら「あなたはバケーションにここに来てるのよ」って言われたんです。留学を進めてくれた教授が私の事情を丸ごと事前に伝えてくださっていたんですよね。

 

本当に自分を見つめ直すための期間としてフロリダ大学を進めてくださっていたのがはっきりわかりました。

 

それならとことんバージョンをしょう!と思いっきり楽しみました。一軒家にルームメイト3人と犬2匹でルームシェアをして暮らしていました。大学の授業は週に1回で、それ以外はフリータイム、みんな自然が好きな方達ばかりで、庭でハーブを育てたり、一緒にお料理したり、ヨガをしたりと楽しみました。

コロナの影響で1年足らずの9か月で帰国したのですが、この留学での一番の収穫は「研究者の道はやめる」と決断ができたことです。

 

ーそうだったのですね!フロリダで自分を見つめなおす本当にいい時間を過ごされたのですね。具体的にはどんな気づきや心境の変化がおきたのでしょうか?

 

そうですね。そもそも研究者を目指すきっかけとなった「自然が好き」という感覚を取り戻したことが一番大きかったです。

花をみて綺麗だなと思ったらそれをそのまま素直に表現する、自分の心のままに自然を描写できるという感覚です。

もしかしたら、当たり前でしょと思われるかもしれないのですが、研究の視点がはいると自然との関わりが分析的で客観視になって、例えば「この木は一体どれくらいの窒素を年間吸っているんだろうか、どんな材料に適しているのかなど、それを数式に表わしたりなどする必要があるんです。

この視点でずっと関わっているうちに自分の心で感じていることがわからなくなってしまっていたのだと思います。研究することで自然への愛情を表現している方がおられますが、私は違うんだ、とはっきり自分を認められたんです。

 

ーなるほど、大平さんにとっては研究者の視点で関わると、ご自身の感覚に蓋をしてしまうことになっていたのですね。それが解き放たれて、ご自身の気持ちや感覚に素直になれたということなんですね。 

 

そうですね!私は自然が好きで、自然とともに生きたい、自分が自然の一部として感じられるそんな仕事がしたいとはっきりわかったんです。

 

 

 

 

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自然を愛し心からリスペクトする仕事との出会い

 

さて、研究者も大学院も辞めると決めてコロナ真っ只中に帰国した大平さんの目前に、教授の言葉どおり、思いもよらぬところから次の扉が訪れます。

 

フロリダから帰国して気持ちはすっきりしたものの、その後、具体的には何をするかは全く決めていなかったんです。そんなある時、たまたま今の勤め先である造園の作業風景がSNSで発信されていたのを見つけたんです。

時間もたっぷりあったので、ふらっとアポもとらずに現場に見学にいったんです。遠くの方から見つからないように見学しようって思っていたのですが、従業員の方、のちの先輩になるんですが、に会ってしまって、これはきちんと代表の方にご挨拶しなきゃと思ってメールをしたんです。

そうしたら興味があるならまたおいで、とメールをいただいて、何度か顔をだしているうちに「アルバイトする?」という話になり、そこで働くようになりました。

 

ーそうなんですね。自転車で1時間もかかる場所だったと伺いましたが、そこへ何度も通われて、その現場のどんなところが大平さんの心を動かしたのですか?

 

それが、一言でいうと「ピン」と来たんです。(笑) 


その現場はお庭の造園だったのですが、みなさんが作業されて創られたその場所がとにかく心地いいな、と思ったんですよね。

 

ーさすが、自然の心地よさを肌でキャッチして、そこでされた仕事の価値を見出されてたのですね。その後、造園業で修行する道を選択し、造園を通して自然環境を改善するお仕事をされていますね。今、実際に師匠や先輩たちからどんなことを学ばれていますか?

 

そうですね。一言でいうと、師匠や先輩たちからは自然に対して謙虚でいることを学んでいます。例えば、人が手を入れて何か作業をして、それがうまく改善したとき「自分たちがやった」という風には絶対言われないんです。

 

自然の力でそれができた、と。

 

また、自然を観察される時にも、自然に対して本当に繊細で愛情深い眼差しをむけておられるのがわかります。自然が起こしている小さくて微かな変化も見落とさずに、空気や水の流れ、土壌の変化を捉えられていてる。謙虚だからこそ、この高いレベルの観察ができるのだなと思っています。

何より行う行為が「その土地のためにできることは何か」という純粋な動機からの行動なんです。私は造園や土壌の環境改善の技術だけでなく、自分自身のあり方も今の職場から全て吸収して学びたいと思っています。

 

ー進路に迷い悩み苦しんだからこそ、大平さんが心から望んでいた、自然に対して心から尊敬の気持ちを抱いておられる師匠とそのお仕事に出会えたのですね。素敵なお話をありがとうございました。

 

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将来は富山に戻って、富山の自然環境を改善する仕事をやりたい、そう話す大平さん。

 

「目の前の扉を開け、懸命に取り組めば、次の扉が開かれる。」

 

目の前に現れるチャンスの扉、それをノックするかどうかはあなたの決意と行動力にかかっている。
そして、その扉を開けるかどうかは、自分の感じている気持ちに正直になる勇気が必要なのかもしれない。